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一言一会/那三届

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中国の若き俳人たち 齊藤昭信

 私は平成十八年から毎年五月ごろ古都西安を訪れ、西安外国語大学の教授毋育新さん(天為同人)と、同大学の日本語教師の木村行幸さんのご協力で、その教え子の大学院、学生諸君と西安及び近郊の歴史の跡を吟行しながら句会を開いてきました。今では天為会員の西脇はま子さん、熊谷佳久子さん、蓮見幸子さん、鈴木楓さん、石毛紀子さん、斉藤輿志子さんが仲間に加わるようになり、より充実した楽しい句会になっています。

 さて、この度、天為三百号記念大会で第七回天為新人賞受賞に輝いた董璐さんの事を、お話しさせて頂きます。

 平成二十二年の夏、中国の友人から私に、延安大学の日本語学科で教鞭を取っている俳句好きの先生が居ますと紹介が有りました。連絡を取ってみると、驚いたことに今まで作った俳句と毎日作った俳句を毎週熱心にメールで送られて来ました。それが董璐さんでした。彼は西安外国語大学の卒業生で、何と毋育新さんの教え子でもありました。  

 平成二十三年五月二日、私は天為のなかまと西安を訪れました。

 董璐さんは延安より六時間をかけて、西安の吟行会に参加するため駆けつけてくれました。この時が、董璐さんと私の初めての出会いでした。

 董璐さんは、その場で作った俳句をもって、「天為」に投句を開始したのです。二年後の平成二十五年九月に天為新同人、二十六年には天心集巻頭となり、めきめきと頭角を現してきました。

 そして天為二十五周年三百号記念大会祝賀会の壇上にて、直々に、有馬主宰より第七回天為新人賞を受賞したのです。
 天秤の桶の若水満々と       董 璐
 耕人の語りし杜甫の流離かな    董 璐
 麦の穂の黄河の色となりにけり   董 璐
 風光る太公望の渭水かな      董 璐

 彼は今、俳句を取り入れた授業を行い、授業中に教室を出て、学生達と吟行をしながら俳句の指導をすることも有るそうです。

 中国での学生達が作る俳句には当初幾つかの問題点が有りました、問題点で一番大きかったのは、学生達が漢詩を作るそのままの方法をもって俳句を作る事です、先ずは漢詩と俳句の違いを明確にする事から始めました。そして、月が美しい、夕日がきれい、故郷が恋しいと言うように、説明の俳句が圧倒的で、また意味が自分だけが分かるような俳句が多くあります。そこで主観的でなく客観的に、抽象的でなく具体的にと、学生達が俳句に慣れるまで作る方向づけをしました。俳句を読む人達にも理解出来るようにと話をしています。

 最初の頃の学生達の参加は五人位でしたが、毎年参加者が増えてゆき、今年二十七年、西安の陝西省歴史博物館、韓城市の司馬遷墓の吟行には、毋育新さん、木村行幸さんをはじめ、卒業生の参加も含めて二十数名の参加者となり、天為会員も含めて三十名、大型バスをチャーターしました。

 平成二十六年五月一日、陝西省歴史博物館、二日、五丈原に吟行した時の、学生諸君の俳句を紹介します。
   太極に二匹の魚や春深し    苗  苗
   白壁の迷路涼しき八卦陣    任 文娟
   夏草の茂る渭河の中州かな   陳  芳
   孔明の延寿願ひて夏の星    位 振暁
   荒れ狂ふ黄河壺口黄砂舞ふ   劉 青清
   走り出す六頭の竜聖五月    王 淑婷
   夏風や金の杯獅子二頭     劉 燕龍
   春うらら遠方に渡す鐘の音   折 花花
   走る獅子黄河を背にし水温む  衛 亜楠

 今、中国では毎年、日本の俳句会が主宰する、中国の全国大学生による俳句大会が有ります、応募数は千句を越え、その中から七、八人が最優秀作品に選ばれ日本へ招待されます。西安外国語大学も五年前から参加し、ここ三年毎年最優秀に選ばれており、去年の最優秀者は衛亜楠さんでした。

 西安の俳句会に年々多くの学生が参加するようになってきました事は大変嬉しいことです、しかし卒業すると、ほとんどの学生は俳句から離れていくのが現状です。それでも、大学院へと進み、卒業後は大学での教員を目指す学生達は俳句を日本語表現の勉強と、日本文学の研究の一環と考え、続けて俳句を作り、私のところに送ってくるのです、これは嬉しいことです。

 ここで、董璐さんの他の天為の会員を紹介します。

 毋育新さん、彼は以前、福井大学に留学しておりましたが、更に平成十八年九月、東京外国語大学に留学生として再度来日をし、その時、俳句に出会いました。直ぐに天為に入会をし、三年後俳句に対する熱意と努力で同人となりました。現在西安外国語大学日本語学科の副学院長の要職にあり、大学の実務をこなしながら中国に俳句を広めようと努力をしております。
   龍王廟旗翻る清和かな     毋 育新
   去年今年城門を舞ふ巨龍かな  毋 育新
   南山を背に瓜小屋を構へけり  毋 育新
   冬北斗漢の武帝の馳道かな   毋 育新

 劉海燕さん、彼女は西安外国語大学、大学院を卒業、途中二年間日本に留学をし、現在湖北省黄石市、湖北師範学院大学で教鞭を取っています。彼女は毋育新さんの次に古い会員で西安吟行の最初からの参加者です、日本留学の時は東京例会にも参加しまた。そして今年の新同人に有馬先生より御推挙いただき晴れて同人となりました。
   竜紋の爵に注いだ愁思かな     劉 海燕
   清明に流る長江二胡の音      劉 海燕

 呉瑞香さん、西安外国語大学を卒業後、建築関係の大学を目指して上海で勉強しながら俳句を投句しています、学生時代に木村行幸さんの授業で俳句の魅力に取りつかれ、その後木村行幸さんより私に託されて、毎日一句以上を作って送ってきました。そして彼女も今年新同人に推挙されました。
   黙々と立つ五丈原風薫る      呉 瑞香
   鴬に西湖貫く蘇堤かな       呉 瑞香

 古月清舟さん、天津の出身で日本の文化に憧れ、東京外国語大学に入学をし、更に東京学芸大学大学院へと進みました。今は更に日本文化を知る為、華道、茶道、短歌を学んでおります、四年前から俳句に興味を持ち天為に入会しました。現在上智大学で教鞭を取りながら日中学院で中国語を教えております。中国語を学ぶ私の恩師でも有ります。彼の本名は胡興智です。
   天津は寒さ厳しと便りかな     古月清舟
   薔薇生けて漢字ははてと思ひけり  古月清舟

 郭佳寧さん、大連外国語大学を卒業後、現在、名古屋大学大学院で日本の古典文化、特に奈良法隆寺の研究に励んでおります、将来は日本に残り日本の学芸員を目指しております。
   陵王や管弦鳴らし聖霊会      郭 佳寧
   三宝院点々と散る梅の影      郭 佳寧

 劉国勇さん、西安外国語大学を卒業し、湖北省の東華理工大学で教鞭を取っており、今、博士取得の為日本に留学中です。西安吟行の最初からの参加者でしたが、天為に入ったのは、今年六月からでした。
   長安の曲水の地や夏に入る     劉 国勇
   菜種梅雨窓越しに聞く論語かな   劉 国勇

 中国の人達が俳句を作る事は本当に大変です。日本語をマスターしなければ俳句の世界に入るのはとても難しいと思います。それでも、三年生、四年生さらに大学院生の学生は勿論、日本語をまだ良く理解出来ない二年生の学生も果敢に参加してくるのです。私達と一緒に中国の文化、歴史を句材に季語を考えて作った俳句には、学生達にとって素晴らしい学習となってます。二回、三回と参加する学生、そして西安での句会を楽しみに待っている学生も増えているのです。

 西安吟行は九回を数えます。原則として五月の黄金週間に合わせて実施をし、今までに、陝西省歴史博物館、碑林博物館、兵馬俑坑、大雁塔、小雁塔、お釈迦様の指の骨がある法門寺、乾陵、三蔵法師の奉る興教寺、始皇帝陵、五台山,雲崗石窟、平遥古城、五丈原、洞庭湖、赤壁、龍門石窟、少林寺、黄鶴楼と数多く吟行をしました.。今年は、司馬遷墓、天水の麦積山石窟、伏羲廟等を吟行してきました。

 私達が中国で作りました俳句を紹介します。
   呉王の剣越王の矛明易し      はま子
   汗血馬たらんと駆ける夜の新樹   佳久子
   兵馬俑地底に黙し麦の秋      幸 子
   屋台売るウイグルの麺麭新樹光     楓
   石榴咲く兵馬俑坑に猫車      紀 子
   天竺の豆はそら豆大雁塔      輿志子
   呉の国の暮れなんとして桐の花   昭 信

 私が中国語を勉強している学校の各教室に標語が掲げられております。『学好中国話、為日中友好起橋梁作用』、訳しますと『中国語を習得して日中の友好の架け橋に成りましょう』です。私は大好きな標語で、西安の吟行会の時この標語を引用して、学生達に言っております、『請通過俳句的学習、成為中日友好之橋梁』、訳は『俳句の勉強を通して中国と日本の架け橋になってください』と。

 きっと近い将来、俳句は確実に中国の各地に広まり、そして定着をして、中国の文化になる事でしょう。これこそが有馬朗人先生の言われる、『俳句で世界平和を』と思っております。


こにし注:
平成二十九年六月三日(土)、チャップリンの会、第257回句会、新川会館で配布、作者の了解を得て転載。
出所は2015年11月15日発行、「天為」三百号記念特別号、155~158頁。
「請」と「毋」の二字を訂正。しかしblogの仕様により、「毋」は直しても表示が変わらない。内部は「毋」、表示は「母」のまま。

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作者の齊藤昭信様と
(撮影:劉国勇さん、4月1日の句会(チャップリンの会、第255回句会)の後、人形町駅で。)




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by li_japan | 2017-06-03 18:32 | 一俳一会(俳句,漢俳) | Comments(0)
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